月の記録 第14話


首都ペンドラゴンより少し離れた土地で行われた小さな夜会。
忙しく立ち回るユーフェミアに少しは息抜きをと、裏から手を回しコーネリアが手配したものだから、その日の警備は全てリ家が行っていた。
規模が小さいとはいえ、皇族が行う夜会。
リ家と関係深い貴族は、妹姫の相手は面倒だと思いながらも、遠路はるばるこの夜会に出席していた。手配はしたが、どうしても抜け出せない用事があったコーネリアは、親しい皇族に夜会に出席して欲しいと声をかけた。だが、ユーフェミアの慰安のために辺境の片田舎になど行けるかと皆拒否した。
そもそも、皇族としての責務を果たしている彼らは忙しい身。
ならば暇な皇族をと、白羽の矢が立ったのはヴィ家だった。
公務についていない皇族はいるが、彼らをユーフェミアの元へなど行かせたくはなかった。コーネリアが恩を感じ、彼らに便宜を図る可能性があったからだ。微妙な力関係の上に成り立っている皇族たちのバランスを崩しかねない。
だが、力の弱いヴィ家の二人なら、まあいいかと考えたのだ。だがナナリーは最近その聡明な頭脳を用いて、マリアンヌを通し皇帝に意見を出すほどになっているという。役職は得ていないが、だからと言って無駄飯をくらってるわけではない。
となれば残り一人。
公務についているが、無能で役に立たないルルーシュ。
当然、何故自分がと拒絶したが、何の役にも立たないお荷物で、毎日大した仕事もせずに暇を持て余しているならと、命令という形で行かせる事になった。マリアンヌはリ家と争う気はない為、たまには外に出なさいと、ルルーシュを送り出した。
ヴィ家の使用人は少なく、他の離宮に比べ警備員も元々少ない。
それは、警備責任者であるコーネリアにマリアンヌが不必要に人を入れないようにと言い聞かせている為だった。憧れのマリアンヌに言われてしまえば、コーネリアは引くしかない。だから、他の離宮の1/3にも満たない守りを、ルルーシュの警護として連れては行けないため、護衛も世話役も全てリ家が用意した。
周りを取り囲むのは味方のフリをした敵。
そんな中で過ごせというのかと笑いながらも、ルルーシュは了承した。

だから、この夜会の警備にはアリエスのものは一人もいない。
ルルーシュを守ろうと考える者は、一人もいなかった。


突然鳴り響いた警報、それとほぼ同時に起きる爆音。
何が起きたと考える間もなく割れるガラス、砕ける壁、落ちる天井。
普段であれば気づけただろう強襲だった。
だが、この夜会の警備員の大半は、元々ユーフェミアと共に行動していた者たちで、コーネリアが追加で送った兵は、ルルーシュと共に来た僅かな人数だけだった。
未だに慣れない生活に体は疲れ切り、疲労と睡眠不足で判断力も鈍っている者達が、警備の主力だったのだ。突然言い渡された夜会のため、休憩する間もなく駆けまわり警備の形は作ったが、そんな状態の兵がまともな警備など出来るはずもなく。
結果、このような事態を招きおこしていた。
飛び散る破片に、降り注ぐ瓦礫に、人々は恐慌状態に陥り、泣き叫び、わめき、声にならない悲鳴を上げた。

「敵は正面から来ている!!裏口から外へ避難しろ!衛兵!誘導を!!」

この爆音の中でも耳に届いたその声に、人々は正気を取り戻し、衛兵たちは彼らを裏へ、裏へと誘導していく声が聞こえた。

「ユフィ、大丈夫!?」
「スザク!!」

スザクの声が耳に届き、ユーフェミアは声の方へと振り返った。
そこには、この混乱で離れてしまった騎士スザクがいた。
他の従者たちとも離れ離れとなり、一人心細い思いをしていたユーフェミアは、駆け寄って来たスザクに辺りをはばかることなく抱きついた。スザクもまた、見失ってしまったユーフェミアを見つけられた安堵から、迷わず抱きしめ返す。

「怪我は?大丈夫!?」
「わ、私は大丈夫です」

恐怖から震え上がって入るが、怪我をしている様子はない。
よかったと、スザクは安堵の息を吐いた。
あとはルルーシュだ。
辺りを見回すが見つからない。
さっきの声が彼のものだとすれば、もう逃げた後かもしれないが。

「急いで此処を出よう。ルルーシュ殿下もきっと外にいるから」

ユーフェミアは、きっと兄の事を心配しているだろう。
安心させるように言うと、彼女はさっと顔色を変え表情を強張らせた。
何だろう?と考える間もなく、嫌な想像が頭を占める。
降り注ぐ瓦礫や飛び散った破片、そして爆風で倒れ伏し、既に命が尽きている者たちが視界に入る。それほどの攻撃を受けた場所なのだ。
だが、先ほど声がしたのだから死んではいない。
では?

「・・・ユフィ、ルルーシュがどこにいるか知っているの?」

ユーフェミアはますます顔色を悪くし、何か言おうと口を開閉させるが、これだけの恐怖を味わったせいか声が出ないようだ。
だが、彼女が向けた視線。
それだけで答えは解った。
崩れ落ちた天井の残骸・・・いや、二階あるいは三階であっただろう床の残骸が辺りに山を築いている。スザクの視界を遮るそれらの裏側、ユーフェミアの視線の先。先ほど彼女が飛び出してきた辺りに、彼女の手を引き向かった。彼女は嫌がる様に足に力を入れた気がしたが、きっと恐怖で体が上手く動いていないだけだろう。
当然だ、皇女である彼女は、こんな惨劇を目にした事など無いのだから。
瓦礫の裏にまわると、そこに彼はいた。

「ルルーシュ、殿下。ご無事でしたか」

床に座り込む彼の背中に声をかけると、不愉快そうに顔を向けた。

「なんだ、まだ居たのか」
「殿下こそ、まだこのような所におられたのですか。この建物はいつ崩れるか解りません、すぐに外へ避難しましょう」
「ああ、そうだな。お前はユーフェミアを連れて、先に行ってくれ」

こちらに背を向け、両足を伸ばす様に座っているルルーシュは、そっけなく言った。

「いえ、一緒に・・・」

爆音が、再び鳴り響いた。
建物の外で爆発したそれは、まだ残っていた窓ガラスを砕き、建物に大きなひびを入れる。時間が無い。スザクはそう悟り、この我儘皇子を担いででも連れ出そうと近づき、そして声を失った。
ルルーシュの片足が、瓦礫の下に埋まっているのだ。
これでは立てないのは当たり前、逃げ出さないのも当たり前だ。
彼の周りにいただろう護衛たちは何をしていたんだ?と考えたが、評判の悪い黒の王子を守るぐらいなら、リ家と深い関係にある貴族を守るだろう。スザクがユーフェミアの傍にいる事を知っているから、彼らはそちらを優先させたのだ。ルルーシュがここで死んでも、混乱したこの状況で見失ってしまった、一人でも多くの人を救うには仕方が無かったとでも言うだろう。

「まって、今助けるから!」

とはいえ、瓦礫の量が多すぎる。
一度ルルーシュの両脇に手を入れ、体ごと引っ張ってみたが、引きぬくのは無理だった。この瓦礫をどかすか、彼の足を切る以外に道はない。
再び爆音が鳴り響き、天井がガラガラと崩れ落ちた。

「きゃああああっ」

破片がユーフェミアの頭上めがけて落ちてくる。
スザクは反射的にユーフェミアの体を抱きかかえ、破片を避けた。
幸い彼女に怪我はなかったが、顔面蒼白で恐怖から体がガクガクと震え、焦点も怪しくなっていた。いつ気を失ってもおかしくないほど怯えきっている。
まずい、時間が無い。

「枢木!いいからユーフェミアを連れて逃げろ!」
「殿下を置いてはいけません!」
「命令だ!」
「聞けません!」
「この状況で俺とユフィを救えない事に気付け!」
「それでも、僕は!」

二人とも、救ってみせる!
そう声に出そうとした時、爆音に、銃声が混ざりだし、ユーフェミアは声にならない悲鳴をあげスザクに抱きついた。これでは瓦礫を動かす事が出来ない・・・!

「・・・っ、お前がいたら、俺の護衛が出て来れないんだ!邪魔なんだよお前は!!」
「護衛!?」
「人前に出るのを嫌がる奴なんだ、もうそこにいる!お前が居なくなれば、俺は助かるんだよ!俺を、ユーフェミアを、お前のエゴのために殺すつもりか!いいからいけ、スザク!お前はユーフェミアの騎士だろう!」

・・・自分以外の護衛が?
本当にいるかどうかは解らない。
彼の嘘かもしれない。
だが、ユーフェミアがこの状態である以上・・・。
スザクは唇を噛み締め、ユーフェミアを抱きかかえた。

「すぐに戻ってくるから!」

非常用の照明だけの薄暗い場所だというのに、足場の悪い瓦礫の床とは思えないほど軽快な足取りで、スザクは大広間を出ていった。
スザクが出た頃には、逃げ惑っていた人々は・・・死者とルルーシュを除いて全員大広間を出ており、今頃裏口に殺到していることだろう。
彼らが外に出るまで、事建物が持つかどうか。
未だ鳴りやまない銃声と破裂音の中、聞きなれた音が懐から聞こえてきた。

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